信じるか信じないかはあなた次第
日本映像ソフト協会の調査によれば、映像ソフト・音楽ソフトの市場は微減つづき。映像では有料動画配信が順調に伸びていますが、有料音楽配信はここ数年大きな伸びがありません。
そんな中、CD・DVDチェーンが新しい動きを起こしています。中でも筆頭のTSUTAYAは最近、全国的に店をたたんでいるようです。ショップの状況に詳しいO.D.A.さんが、大量閉店の背景を分析します。
- 【変化するGEO】TSUTAYA大量閉店の原因。配信大手に負けただけではないオワコン原因を漫画にしてみた【蔦屋】
- 閉店相次ぐTSUTAYAと、堅調なゲオ。逆風のレンタル業界で差がついたワケ
- VODの台頭前から衰退していたレンタル業界
- 意外にも堅調なゲオ
- ご近所のTSUTAYA」が絶望的に
- 大手が業態転換を進めるもののCCCが「一強」に
- でも店がなくなるのはさみしい……
- 著者紹介──O.D.A.
【変化するGEO】TSUTAYA大量閉店の原因。配信大手に負けただけではないオワコン原因を漫画にしてみた【蔦屋】
閉店相次ぐTSUTAYAと、堅調なゲオ。逆風のレンタル業界で差がついたワケ
好きな映画やアニメをいつでも観られるNetflix、HuluなどのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスは、その利便性から年々利用者数を伸ばしています。日本におけるVODの市場規模は、今後も年率9%のペースで拡大するとみられ、消費者の間でさらに定着していくことでしょう。
さて、このような状況で逆風に曝されているのがレンタルビデオ業界です。業界の市場規模は縮小し、レンタルビデオ店の店舗数は年々減少が続いています。VOD市場に淘汰される勢いですが、老舗のゲオやTSUTAYAは新業態にシフトし、従来の事業とは異なる新事業で活路を見出しているようです。
VODの台頭前から衰退していたレンタル業界
日本のVOD市場はここ数年で規模が急拡大しました。一般財団法人デジタルコンテンツ協会によると、2015年の市場規模1410億円に対して、2020年は3710億円と5年間で2.6倍のペースです。2021、2022年はコロナによる巣ごもり需要によってさらに拡大すると見られています。
ちなみに、Netflixが国内に上陸した2015年は「日本のVOD元年」と言われています。以前は既存の映画を流すだけでしたが、オリジナルコンテンツを製作するようになり、映画会社をも脅かすようにもなっています。
一方、レンタルビデオ業界は以前から衰退が始まっていました。そもそも業界では激しい競争によって供給が過多となっていたほか、YouTubeの普及やスマホの普及による娯楽の多様化によってレンタル需要が減少し続けていました。
そのような状況で台頭したのがVODであり、特に2015年以降はレンタルビデオ市場の規模が大きく圧縮されています。ゲオ・TSUTAYAにおいては店舗数の減少が続き、既存事業の限界が見えています。両社とも新事業で再起を図るようですが、新たな取り組みは効果を発揮しているのでしょうか。ここからは両社の業績を分析し、今後について予想してみます。
意外にも堅調なゲオ
レンタル事業の印象が強いゲオホールディングス(ゲオ)ですが、近年の業績は意外にも好調なようです。2018/3期から21/3期までの業績は以下の通りです。
【ゲオホールディングス業績(18/3期→21/3期)】
売上高:2993億円→2926億円→3051億円→3284億円
営業利益:147億円→157億円→100億円→43億円
最終利益:66億円→103億円→38億円→▲7.5億円レンタルビデオ業界の不調が続く近年でも、ゲオHDの売上高は上昇が続いています。実は同社、DVD・ゲームのレンタル及び販売を担う「GEO」だけでなく、リユースショップの「2nd STREET(セカンドストリート)」も展開しています。近年ではGEOの店舗数をやや減らす一方で、2nd STREETの店舗数を増やしていきました。
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TSUTAYAが最近やたら閉店している件について
写真:9月15日に閉店したTSUTAYA東海大学前店の外観(筆者撮影)
日本映像ソフト協会の調査によれば、映像ソフト・音楽ソフトの市場は微減つづき。映像では有料動画配信が順調に伸びていますが、有料音楽配信はここ数年大きな伸びがありません。そんな中、CD・DVDチェーンが新しい動きを起こしています。中でも筆頭のTSUTAYAは最近、全国的に店をたたんでいるようです。ショップの状況に詳しいO.D.A.さんが、大量閉店の背景を分析します。
「
」というブログをやっているO.D.A.と申します。ブログ内で様々なCD・DVD取扱店の動向を観察しているついでに、ただ も運営しています。今回は運営中に見つけた最近のTSUTAYAの動向を中心にお話ししたいと思います。神奈川県の東海大学北門そばにあるTSUTAYA東海大学前店が9月15日に閉店しました。「若者の××離れ」という言葉を安易に使うのは好きではないのですが、このTSUTAYAの立地は住宅地とはいえ商圏として集積度はそれほど高くない場所で、つまるところ相当に学生さんをメイン顧客として商売をしていたはずであり、こればっかりはそういうことなのでしょう。
とはいえそういう場所だけではなく、ここ数ヵ月で全国的にTSUTAYAの閉店が無闇に目立つようになっています。
07/02 TSUTAYAすみや 袋井店(静岡県)
07/09 TSUTAYA 天童バイパス店(山形県)
07/14 TSUTAYA 東大竹店(神奈川県)
07/31 TSUTAYA 東武みずほ台店(埼玉県)
07/31 TSUTAYA 東十条店(東京都)
07/31 TSUTAYA 等々力店(東京都)
07/31 TSUTAYA 茨木店(大阪府)
08/16 TSUTAYA 北14条光星店(北海道)
08/20 TSUTAYA 東鷲宮駅前店(埼玉県)
08/20 TSUTAYA 東長崎店(東京都)
08/20 TSUTAYA 外環羽曳野店(大阪府)
08/27 TSUTAYA 松本庄内店(長野県)
08/27 TSUTAYA 岡崎欠町店(愛知県)
08/28 TSUTAYA 寒川店(神奈川県)
08/31 The News TSUTAYA 多摩センター店(東京都)
08/31 TSUTAYA 山科駅前店(京都府)
08/31 TSUTAYA 尾浜店(兵庫県)
09/10 TSUTAYA 観音寺駅南店(香川県)
09/15 TSUTAYA 東海大学前店(神奈川県)
09/18 TSUTAYA 村松原店(静岡県)
09/24 TSUTAYA 江坂店(大阪府)
09/30 TSUTAYA ヨークタウン山田鈎取店(宮城県)
09/30 TSUTAYA 大宮宮原店(埼玉県)
09/30 TSUTAYA 梅島店(東京都)
09/30 TSUTAYA 南太田店(神奈川県)
09/30 TSUTAYA 池下店(愛知県)
09/30 TSUTAYA 皇子山店(滋賀県)
09/30 TSUTAYA 相生店(兵庫県)
09/30 TSUTAYA 瀬戸高知店(高知県)※筆者調べ
この7月から9月までの間に確認できただけでこれだけのTSUTAYAが閉店しています。もちろん若者に限らず音楽・映像の視聴方法がCDやDVD等のパッケージから様々な配信サービスに移行していることが大きな要因のひとつであることは間違いないのですが、それでも6月以前の閉店は月に多くても5店程度でしたから、これはただ不採算店を閉鎖しているだけではないと思うに至りました。
ご近所のTSUTAYA」が絶望的に
閉店する店舗を見てみると、大都市圏に比較的簡単にアクセスできる住宅の駅近くに立地する店が相当多いことがわかります。ここから導かれるのはこれらの閉店は不採算店の整理ということだけではなく、もう経営側としては今の「ご近所のTSUTAYA」形態の未来に希望を持っていないのではないかという推測。
TSUTAYAを経営するカルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)経営陣は以前から「我々は企画の会社である」※という発信をしてきています。
現在CCCが推進している図書館の運営委託、代官山・湘南や枚方のT-SITEや蔦屋書店、二子玉川の蔦屋家電等の業態は、まさにその発信をあらわしているものとみなせますが、いずれもが滞在型の施設です。
会社や学校の帰りについでに寄ってもらっては小銭をちゃりんちゃりん稼ぐのではなく、わざわざそのために来てもらう滞在型の施設で1人頭の消費金額・消費時間を最大化する方向。言い換えれば「ケ」のビジネスから「ハレ」のビジネスへのシフトが今まさに実行されている最中であるということでしょう。
たとえば9月26日、福岡市中央区六本松地区の九州大キャンパス跡地にオープンした「六本松421」に蔦屋書店が入居しましたが、これは福岡市天神の繁華街にあったTSUTAYA BOOK STORE TENJINが6月30日に閉店して移転した形です。
福岡市レベルの都市規模、天神と六本松という距離があれば、移転せずとも2店舗とも維持できるのではないかとも感じるのですが、意識的な業態シフトの一環と考えれば納得がいきます。
TSUTAYAはCCCの子会社。図書館委託やモール型施設の立案は親会社直轄のCCCデザインカンパニーによるもので、後者こそが企画会社としての理念を色濃く反映しているものと言えるでしょう(もちろん企画会社にシフトするまでにはTSUTAYAチェーンの大きな売上が不可欠だったわけですが)。
日本はCD・DVDのパッケージがいまだに根強く支持されている、世界的にも稀有な国です。しかしいま日本国内でも、本格的なCD・DVD業界の衰退を見越してか、TSUTAYA以外のチェーンでも新しい動きが起きています。
※編注:CCCは公式サイトでも情報コーナー「」を設置。武雄市図書館のほか、ガストの新メニュー開発など、さまざまな分野での企画・運営・マーケティング事例を紹介している
大手が業態転換を進めるもののCCCが「一強」に
TSUTAYAとともにCD・DVDレンタルを寡占しているチェーン・ゲオは、アパレルなどを中心に扱う総合リサイクルショップ「セカンドストリート」の店舗展開を急ぎ、ゲオからの業態転換も相次いでいます。
CD・DVD販売最大手のタワーレコードは、各ブランドとコラボレーションをするカフェ店舗を多店化。また独自ブランドのアパレル展開やコンサートグッズの収納ケースなど、オリジナル商品の展開を大々的にしています。
同じく大手のHMVは「HMV record shop」「HMV & BOOKS」など、従来とは異なったコンセプトの店舗を展開しています。
とはいえ現状の展開だけを見ていると、いざ市場がシュリンクしてしまったとき現在の企業体力を維持するのは難しいように思えます。
そんな中、CCCが進めているのは対自治体・対企業のBtoB型ビジネス。同業態だけを見れば市場衰退による影響は軽微といえます。Tカードもそれなりに覇権を握ったといえる規模になりました。やはり他社よりドラスティックに舵を切りつつあるCCCが、この先も関連企業の中では一強になるのではと感じます。
そのぶん、街のTSUTAYAはこれからも徐々に減り、おそらく近い将来、CD・DVDの販売・レンタル店は大都市圏に大型店が数店残るのみとなり、それでもパッケージに触れたい趣味人が全国から集まるようになるのではないでしょうか。
その店が結果として「わざわざそのために来てもらう滞在型の施設」になってしまいそうなのが、ある意味皮肉ではありますが。
でも店がなくなるのはさみしい……
一方、自分のようにいまだにレコード・CDをむさぼるように買っては聴いている人間としては、きっと頑固な趣味人にまじって滞在しまくることになるのでしょう。サブスクリプション型のサービスも併用してはいますが、サービスにリコメンドされるのは今聴いている楽曲に近しいジャンルがどうしても多くなります。これでは、自分の知らない世界と出会うおもしろみがありません。
CDショップでたまたまジャケットが気になって試聴したり、ふらっと入った中古レコード屋で店のオヤジに半ば強引にレコードをすすめられたり、CDレンタルが通常4枚1000円のところ5枚1000円のサービスを実施していた際、その場で適当に5枚目を選んだり……そのときの好みとはまるで違う、でも素晴らしい音楽の数々と事故のように出会ってきた身としては、やはり店頭は離れがたいのです。
パッケージは衰退しても音楽はなくなりません。願わくばできるだけ多くの方に、できるだけ多くのそんな出会いがありますように。
著者紹介──O.D.A.
東京都在住・40代。
WASTE OF POPS 80s-90s
レコード店開店閉店メモ
レンタルCD・DVD店/複合書店/新古書店 開店閉店メモ
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