信じるか信じないかはあなた次第
- 【無料ツアーの罠】無料招待の日帰りバスツアーの闇を漫画にしてみた(マンガで分かる)@アシタノワダイ
- 「無料バスツアー専門会社」が女性客だけを集めて必ず立ち寄る"ある場所"
- ■最安の宿泊先を手配される添乗員たち
- ■圧迫感のある地下牢みたいな部屋で一夜を過ごす
- ■通された“別棟”は喫煙所代わりの物置
- ■怪しいツアーで必ず立ち寄るお店
- ■当選者の100%が女性なワケ
- ■タダより怖いものはない
【無料ツアーの罠】無料招待の日帰りバスツアーの闇を漫画にしてみた(マンガで分かる)@アシタノワダイ
「無料バスツアー専門会社」が女性客だけを集めて必ず立ち寄る"ある場所"
「無料のバスツアー専門」という旅行会社がある。どうやって儲けているのか。現役添乗員の梅村達さんは「無料バスツアーの当選者はほぼ100%が女性。有名観光地に立ち寄り、それなりの昼食も出るが、そのあとに必ず立ち寄る場所がある」という――。(第2回/全2回)※本稿は、梅村達『派遣添乗員ヘトヘト日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。
■最安の宿泊先を手配される添乗員たち
日帰りの団体旅行では日本の各地へ出かけ、出発地も各地にまたがっている。出発地が添乗員の自宅から遠く、朝の出発時間に間に合わない場合、添乗員はツアー前日に出発地近くの宿に泊まる。それを私たちは「前泊(前泊)」と呼ぶ。
わが国には大小さまざまな旅行会社があり、各社に独自の企業風土が存在し、仕事のやり方も違っている。ところが、こと添乗員が前泊する宿となると、もののみごとに各社の足並が揃う。基準はただひとつ、宿泊料金が安いことである。
今はインターネットで、宿泊料金を簡単にチェックすることができる。添乗員の前泊場所を選ぶのは、旅行会社のツアーの担当者である。彼ら彼女らは、最安値の宿を探し、予約を入れる。
「前泊」とは打って変わって、宿泊ツアーのほうでは、添乗員もツアーの参加者と同じクラスの部屋をあてがわれることが多い。非常に稀なケースであるが、こんなに良い部屋に泊まっていいのということもあった。
このケースは募集型ではまずなく、社員旅行などの受注型ばかりである。豪華な団体旅行の一行が高級な宿に泊まる。ぜいたくのお裾分けとして、添乗員にも上質の部屋が回ってくるというわけだ。
高級な宿に泊まるツアーでも、募集型だとそのようなおいしい話はまずない(例外的に1回だけあった)。値段の張る宿の場合、旅行会社は費用の問題などで添乗員を同宿させないことが多い。
その場合には、ぐっとグレードの落ちる旅館かホテルへ行く。旅行会社は極力、費用を抑えようとする。
■圧迫感のある地下牢みたいな部屋で一夜を過ごす
高級な宿で仕事をさせて、それから泊まりの安宿へ長距離をタクシー移動となれば、宿代を浮かせた意味がない。だから添乗員は参加者を宿まで案内し終えると、そのままバスに乗って安宿へ移動、というのがお決まりのコースとなる。
トルコにカッパドキアという、有名な観光地がある。そこに洞窟をくり抜いてつくった、個性的で人気の高いホテルがある。部屋の一室一室がすべて手づくりで、異なった構造となっている。
そのため添乗員が部屋を割りふらず、参加者に部屋のキーを選んでもらって決める。運命の糸に導かれて、素晴らしい部屋になる人もいれば、いまひとつという人もいて、悲喜こもごもである。
もちろん添乗員には、部屋を選ぶ権利などない。ホテルの中でもきっともっとも人気のないであろう地下牢みたいな一室が私の部屋であった。息苦しくて、圧迫感がすさまじかった。
それでも洞窟ホテルの場合はグレードは最下層とはいえ、ホテル本体の部屋である。日本の旅館では、別棟のすさまじい施設に回されたことが何度かあった。もはや旅館とはいえず、簡素なプレハブ小屋である。
隣の部屋の物音がつつぬけで、ということはこちらの部屋の物音も向こうに丸聞こえのはずなので、神経を使って、一夜をひっそりすごした。それでもそこはまがりなりにも部屋であった。そうではない場所で寝たこともある。
■通された“別棟”は喫煙所代わりの物置
伊豆大島の民宿に泊まった折のこと。「添乗員さんは別棟へ行ってくださいな」と、主人がにこやかに言う。行ってみれば、別棟とは何のことはない、物置きのことであった。
ビールケースがうず高く山積みされているスペースの一角に布団が敷かれていた。自由に行動できるのは布団のスペースだけである。おまけに物置きの脇に喫煙所がしつらえてある。
従業員だろうか、入れ代わり立ち代わりタバコを吸いにやってくる。建て付けが悪いため、そのたびにタバコの煙が容赦なく襲ってきた。狭苦しい上に、一晩中煙ぜめという、苦しみの二重奏を味わせられた。これもまた派遣添乗員の悲哀である。
■怪しいツアーで必ず立ち寄るお店
近所のスーパーマーケットや日帰り入浴施設などで、抽選に当たって、無料のバスツアーに招待された、という経験はないだろうか。
旅行業界には無料のバスツアーを専門とするミステリアスな会社が存在する。その手の会社の営業社員が、スーパーや入浴施設に「お客様サービスとして無料ツアーの抽選会を実施しませんか?」と商談を持ちかける。それに同意した店が抽選会を行なう。
そうして選ばれし人たち(?)が、ツアーに参加するという次第である。ツアーではそれなりの昼食が出て、有名な観光地も見学する。それでいて無料なのだから、参加者からすれば、こんなにウマい話はない。
ふつうに考えれば、その旅行会社は採算がとれるのかと、いぶかるはずである。しかし、そのような心配はとんとご無用だ。もちろん会社はしっかりと儲けが出るような仕組みとなっている。
かくいう私は、そういう怪しいツアーの添乗業務をしたことがある。ツアーでは必ず、宝石店(毛皮店、布団店の場合もある)に寄る。滞在時間は1時間半ほど。セールストークにたけたスタッフの説明の後、買いものタイムとなるのがパターンだ。
高額商品のため、ほとんどの人は買うそぶりも見せない。ところが中には宝石好きの人や多少興味のある人もいる。そういう人が話に乗り、目の前にキラキラ光るものを並べられたら、相手の思うツボ。目が光り出して、キラキラのデュエットとなってしまう。
■当選者の100%が女性なワケ
旅行会社は宝石が売れれば恩の字である。売上げに応じて、宝石店からの見返りがあるからだ。だが仮に売れなくても、それはそれで良い。
というのも抽選に当たった人がひとりで参加すれば、たしかに無料である。ただし同伴者をつれてくれば、その人はタダでは旅行できない。割高な代金を払うことになる。当選者は100%、女性である。
彼女たちはたいていひとり参加をいやがって、友人や夫君をつれてくる。だから建前は無料であるが、実態はかぎりなく有料に近い。またツアーでは、いろいろな土産物店に寄る。店からは売上げ、または人数に応じて、金銭のバックがある。さらに車内販売で業者からの手数料も入る。
ちなみにそういうキックバックの仕組みは、大手旅行会社の募集ツアーでも、基本的には同じである。たいてい車内販売や土産物店の売上げの10%くらいが旅行会社に支払われている。
タダ専門の会社も、大手の会社も、結局はカネ次第なのである。その証拠に無料ツアーはほとんどが土産物店か、それに類した店を中心に回るよう旅程が組まれている。
■タダより怖いものはない
ところで、したたかなのは旅行会社だけではない。参加者の中に、宝石店に場慣れした様子の年輩女性がいた。聞けばその女性は毎月のようにひとりでいろいろとミステリアスな会社の無料ツアーをハシゴしているという。
常連に言わせれば、「宝石屋さえクリアすれば、あとはこっちのもの。タダで旅行ができて、お昼ごはんも食べられるんだもの、サイコーよ」とのこと。
そういう心臓の持ち主ならば、この種のツアーとて問題はない。しかし気の弱い人は注意が必要である。ピシャリと断ることができず、集中攻撃を浴びて、あえなく高価な宝石を購入というケースも、時としてある。タダほど恐いものはない、という結果になってしまう。
なお近頃では、宝石店などでの露骨な販売をカットし、かわりに土産物店の立ち寄りを多くしているツアーが増えているようだ。また大手の旅行会社の半分ほどの格安料金で、特別招待旅行と銘打ったツアーもあるやに聞く。
手を変え品を変え、あの手この手で参加者を呼びこもうとしているわけだ。カラクリは基本的に同じである。もし参加するようなことがあるならば、ご用心を。
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梅村 達(うめむら・たつ)
添乗員
1953年生まれ。東京出身。大学卒業後、映画の制作現場を皮切りに、塾講師、ライター業などを経て、50歳のとき、派遣添乗員に。以来、いくつかの派遣会社を移りながら、現在も日々、国内外の旅行に付き添う現役添乗員である。本書がヒットしたら、「月1~2回、趣味みたいに添乗員の仕事をしていきたい」というのがささやかな夢。
----------(添乗員 梅村 達)