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ドコモが大量閉店へ、「ショップの潰し方」の全貌
代理店を撤退に追い込む「3つのステップ」
来春までに100店以上の大量閉店を目指すドコモ。そのために代理店を“追い込む”施策を行っている。
「ドコモはショップを干し上げて利益を出せないようにしてから『やめるなら今のうちだぞ』と言ってきた。これは脅しだ」。あるドコモ代理店の幹部は、憤りの表情でまくし立てた。
ドコモはショップの経営が厳しくなる条件変更や独自商材・サービスへの制約を一方的に行ったうえで、運営する代理店に対し「申込期限付きの閉店支援金」を提示し、早期の決断を迫っている。ドコモのやり方に対し、有識者からは「優越的地位の濫用に当たる可能性がある」との指摘が出ている。
一方的に条件を変更
複数の関係者によると、コスト削減を目的にドコモは約2300あるドコモショップのうち、まず2022年度末(2023年3月末)までに「少なくとも100店舗以上」の閉店を進める方針だ。翌年度以降も大量閉店を推し進め、数年内に1500~1600店ほどに絞りたい考えだという。
ドコモが100%子会社を通じて事実上、直営するショップ数は30のみ。98%以上のショップは代理店が運営する。ドコモの社内計画に沿った大量閉店の実現は、代理店に多数のショップを閉めさせなければ不可能だ。もしドコモが合理的な理由がなく代理店に閉店を命じれば、代理店との間で訴訟沙汰になりかねない。
ドコモもそこは認識しているのか、「著しい成績不良などやめさせる名目」がない限り、直接的な閉店命令までは下していない。その代わりにドコモが大量スピード閉店のために行っているのが、「3つのステップ」だ。
まずステップ1は、ショップへのインセンティブ(通信契約の獲得数などに応じた報奨金)や支援金の大幅カット、または廃止だ。インセンティブはドコモが店舗ごとに定めたノルマ(例えば他社からの通信契約の乗り換え獲得数)の達成率などで決まる。
ドコモのインセンティブカットの手法はすでに詳報しているが、目標値はドコモが一方的に決めるため、自由にバーを高くできる。これによって代理店の成績評価を下げ、インセンティブをいくらでもカットできる。
このインセンティブの条件の厳格化を如実に表す数字がある。約370のドコモショップを運営するドコモ最大の代理店・コネクシオの2022年3月期決算(2021年4月~2022年3月31日)の期初計画と、このほど発表された結果との乖離だ。
2021年3月期に営業利益106億円稼いだ同社は、ドコモが2021年3月下旬からオンライン受付専用の割安プラン「ahamo」を投入した影響などの逆風を考慮し、2021年4月に発表した2022年3月期の期初計画で営業利益予想を前年度比9.1%減の97億円としていた。
だが、コネクシオは2022年1月、営業利益予想を期初計画比からは17.5%減、対前年度比では25.0%減となる80億円へと大幅に下方修正し、ドコモの代理店関係者の間で大きな話題になった。結局、4月27日に発表した実際の結果は下方修正とほぼ同じ営業利益80億円強となった。
コネクシオが5月12日に開いた決算説明会で、直田宏社長は当初の見通しとのズレについて「通信キャリア(ドコモ)の手数料体系変更による手数料収入の減少が主な原因だ。条件悪化のスピードと規模感は想定を大きく上回るものになった」と率直に語った。
代理店の独自商材を制限
ステップ2は、代理店が生き残りをかけて取り組む独自商材・サービスへの制限や介入だ。代理店はインセンティブの減収を補うため、あの手この手で独自の収益を増やそうとしてきた。
代理店が期待をかけていた独自収益の目玉の一つに「ENEOSでんき」という電力小売りの代理販売がある。ショップに来た客の電気契約を「ENEOSでんき」に乗り換えさせれば、ENEOSから手数料がもらえるものだ。代理店関係者によると「1契約の獲得あたり8000円ほどもらえる好条件」という。前出のコネクシオも2021年7月から独自収益の目玉として「ENEOSでんき」の取り扱いを始め、好調だった。
だが、ドコモが2021年12月下旬以降に突如として、2022年3月から「ドコモでんき」を開始して電力小売りに参入することを代理店に通達。ドコモから「ドコモでんき」の販売への注力を求められた代理店は、「ENEOSでんき」の取り扱いを断念せざるをえなくなったという。
代理店関係者によると、「ドコモでんき」の手数料は「ENEOSでんき」の半分程度。だが、「ドコモでんき」はドコモが代理店の成績を総合評価する「統一評価」の査定に組み込まれている。統一評価は、四半期ごとに行われる5段階のランク分けだ。
低評価の「1」か「2」を取るとドコモからの支援金が大幅カットされるほか、連続で「2」以下を取ると成績不振を理由に強制的に閉店させられるという。「ドコモでんき」と競合する「ENEOSでんき」の取り扱いを続ければ、この統一評価に少なからず響くようだ。
「ENEOSでんき」の取り扱いを諦めた代理店関係者は、統一評価に響くだけに「ドコモのほうが完全な『後出し』だが、従うほかに道はなかった。『ドコモでんき』は事実上、強制なのだから」と話す。
さらにドコモは昨春から、ショップによる「端末を購入した来店客の初期設定サポート」など有料の接客サービスにも介入し、高率の手数料を取る。初期設定サポートの場合、ドコモが料金を一律3300円に定めるうえ、3分の1の1100円を手数料として代理店から徴収しているのだ。
代理店関係者は「うちが人件費を払うスタッフが長い時は1時間以上割いて対応するサービスなのに、ドコモから3割以上の手数料を取られるので、メリットは限られる。ドコモの担当者に手数料の根拠を聞くと『看板代だ』といわれた」とこぼす。
期限付きの閉店支援金
ドコモがステップ1やステップ2で代理店の稼ぎを減らしたり、独自収益の拡大を阻害したりする「兵糧攻め」を行ったうえで、仕上げに行うのがステップ3の「タイムリミット付きの閉店の募集」だ。
代理店関係者によると今春、ドコモは代理店に対し、2023年3月末までの閉店を2022年10月末までに申し出れば「店舗統廃合支援費」を出す方針を伝えている。具体的には、ショップ規模に応じて毎月出している「運営体制支援」「家賃支援」などの支援金を10カ月分支払う条件を提示している。支援費は店舗で異なるが、代理店関係者の試算では1店舗当たりおおよそ1500万~2000万円程度の見込みだという。
だが、ドコモショップを運営する代理店は5年や10年、あるいはそれ以上の賃貸借契約をしているところも少なくない。代理店にとっては予期しなかったタイミングでの撤退となれば、残る賃料負担など不慮の損害が発生しうる。
代理店関係者は「社員の雇用をどうするのかの問題もある。諸々考えれば支援費はかなり少ない」としつつ、「このままショップを続けても、ますますドコモからのインセンティブ条件は厳しくなるだろう。難しい決断だ」と嘆く。
代理店やフランチャイズ問題に詳しい中村昌典弁護士は「ドコモの手法は代理店の同意がない条件変更などで経営的に追い込んでおり、3つのステップをトータルで見て『優越的地位の濫用』にあたる可能性が高い。独自商材・サービスへの介入や制限は、『拘束条件付き取引』として違法になるおそれがある」と指摘する。
店舗数は「3割程度減少していく」
ドコモ側に、大量閉店計画に関する一連の問題を尋ねると、「中期的には店舗数は3割程度減少していくと見込んでいる」と回答した。全国2300店の「3割程度」は700店弱。「1500〜1600店に絞る」という冒頭の代理店関係者の話とも合致する。
一方で、インセンティブの一方的な大幅削減や独自商材・サービスへの介入・制約の妥当性については回答がなかった。
ドコモ自身も、通信料金の値下げによって収益力が低下し、岐路に立っているのは間違いない。
オンラインシフトを進めている事情もある(詳細は6月6日配信記事:ドコモだけが「店舗大リストラ」に動いた複雑事情)。とはいえ、自社の都合を優先するあまり、立場の弱い代理店を3つのステップで追い込み、急速な大量閉店を実現させようとするやり方に、はたして大義はあるのか。公共の通信電波を扱う「インフラ企業」としてのモラルが問われている。