信じるか信じないかはあなた次第
【広島中央警察署】警察の闇@アシタノワダイ
広島県警、病死の男性警部補を書類送検 警察署の8500万円盗難
広島県警広島中央署で2017年、金庫から現金約8500万円が盗まれた事件で、県警捜査3課は14日、窃盗などの容疑で、元同署生活安全課の男性警部補=事件後病死、当時(36)=を容疑者死亡のまま広島地検に書類送検した。
送検容疑は17年3月26日ごろ、同署1階会計課に侵入し、自らが担当していた詐欺事件の押収品として金庫に保管中だった8572万円を盗んだ疑い。
このほか県警職員6人から計約1800万円をだまし取った詐欺容疑でも書類送検した。
県警によると、男性警部補は競馬などで約9000万円の借金があり、事件後に一部を返済していた。17年9月に病死する前、任意の事情聴取に対しては事件への関与を否定したという。
被害金は、県警幹部による任意団体やOBらから集めた金で全額を穴埋めする方針。
県警の鈴木信弘本部長は記者会見し、「警察官にあるまじき行為と深刻に受け止めている。県民の皆さまに深くおわび申し上げる」と謝罪した。
広島県警が抱える深い闇 広島中央署8572万円盗難事件 真顔で囁かれる「3人共犯説」
広島中央警察署の会計課の金庫から広域詐欺事件の証拠品8572万円が盗まれた事件が発覚して、もうじき2年を迎えようとしている。内部犯行の疑いが濃厚でありながら犯人も盗難金も見つからず、前代未聞の不祥事に全国的な関心が高まっていたが、年度末まできて急転直下の動きを見せている。事件後に死亡した警察官が犯行に関与していた疑いが強いとして容疑者死亡で書類送検される見通しが明らかになった。事件は「死人に口なし」で迷宮入りとなり、上層部に管理責任が及ばない形で幕が引かれようとしている。8572万円ものカネがどうして警察署内の金庫から盗まれたのか、そのカネは誰が隠匿しているのか、誰もが警察組織が抱える深い闇に疑問を抱いてきたが、その解明には至っていない。事件が発覚して以後、広島県内の警察やOB、地元メディアも含めた関係者に接触し、調査取材を進めてきた記者たちで状況を分析してみた。
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A 今月21日になって、「死亡」した広島県警の警察官が関与していた疑いが濃いとして、容疑者死亡で書類送検されることが報道された。地元紙の中国新聞は1面トップで扱った。タイミングとしては幹部人事なども動くなかで「年度末調整か?」と思うようなものだ。まさに死人に口なし。多額の借金を抱えていたとされるこの男がすべての汚名をかぶり、墓場に持っていくことで、「警察的には」というか警察上層部的にはもっとも管理責任が及ばない形での一件落着となる。「恐らくそのような落としどころになるだろう――」と見られていたが、見事なまでにその通りの展開になった。
B この事件は犯罪をとりしまる警察内部で起きた犯罪であり、外部機関のチェックが入らないため、公にされている情報は警察自身が開示する極めて限定的なものだ。20日まで、公式には「事件の内容がつまびらかでない」として、「内部犯行か、外部犯行か」さえも言明してこなかった。従って世間一般にとっては、何がどうなっているのかまるでわからない状況が続いてきた。「警察署の金庫から8500万円もの大金が盗まれた」という前代未聞の事件への驚きは大きいものがあった。銀行強盗ではなく、警察署の金庫から盗む大胆さにみなが驚愕した。しかし、寝ても覚めても真相解明がさっぱり進まないので、「広島県警は自浄能力がないのではないか?」と街の話題になっていた。街の人人はそれぞれ近しい警察関係者や知り合いに「どうなってんだ!」と疑問をぶつけ、そのなかから断片的な話も漏れ聞いていて、そうした断片情報が周囲に広まるという現象も起こっていた。いくら箝口令を敷いても漏れるものは漏れるのだ。
C これまでに明らかになってきたことは、中央署内で盗まれた8572万円は、広島県警が一昨年2月、広域詐欺事件(被害者が全国に400人、被害総額1億6500億円)の証拠品として容疑者グループから押収した現金約9000万円の一部で、捜査を担当する広島中央署生活安全課が管理し、通常保管する2階の「証拠品保管庫」ではなく、署長命令で1階の会計課金庫に保管していた。ところが大型連休(GW)が明けた5月8日、金庫の鍵が入っていた会計課長の机の引き出しの鍵が壊されていたことから、不信に思った会計課員が、通常業務終了後に金庫の中を確認したところ、わずかな現金を残して大半がなくなっていたというのが発端だ。
現金は封筒に小分けにして保管されていたが、最後に確認された3月15日から約2カ月間は中身を確認していなかったうえに、発見時には金庫は施錠されており、封筒に中身が入っているような偽装がほどこされていたという情報もある。現場の鑑識では外部の人間の指紋や足跡などは検出されておらず、金の存在、監視カメラの有無、部屋や金庫の位置と開け方、金庫のダイヤル番号や鍵の隠し場所などは、約400人いる中央署でも限られた数十人しか知り得ないという。それで県警本部も「内部犯行の可能性が高い」とした。
また、会計課の金庫の鍵は、本来は管理責任者の会計課長が退庁時に持ち帰る規定があったが課長は机の引き出しに保管し、その机の鍵を別の場所に隠して帰宅していたこと、会計課の部屋の鍵は署内で複製が出回っており、机の鍵のありかを知っていれば休日でも容易に金庫を開けられたこと、金庫は鍵とダイヤル式の二重構造になっていたがダイヤルは常に解錠して使用していたことなど、ずさんな管理体制が明らかになっていた。
B 事件発覚から4カ月後の2017年9月16日、当時とり調べを受けていた中央署生活安全課の男性警部補(30代)が自宅で死亡したことが明らかになったが、県警は「自殺ではない」とした。そして死亡から1年5カ月もたって、この男が「競馬にのめり込み」、「同僚たちに数千万円の借金をしており、事件後に返済していた」「うその口実で現金をだましとった疑いがある」などの状況証拠を積み重ね、「容疑の裏付けができた」として書類送検の運びになっている。
だが、警察関係者の話では、警察官の借金、同僚間での貸し借りなどは調べれば瞬時にわかるという。「サラ金はもちろん内部で金の貸し借りは内規違反であり、それを防止するために緊急融資制度というものまである。見つかれば署内一斉指令で調べられてすぐに暴かれる」という。つまり、隠れて同僚たちから数千万円も借金などできない。最近、捜査機関が一般人の銀行口座や買い物記録までの個人情報を調べようと、裁判所の令状がいらない「捜査関係事項照会書」で入手していることが明らかになったが、警察官の場合はデータを電算にかければ一発だし、競馬にのめり込んでいたことなども含めて個人情報は日常的な「身上把握」や内部の聞き込みですべて上部が握っている。警察官のパチンコや競馬などのギャンブルのたぐいは御法度で、広島県警ではギャンブル癖のある警察官のひったくり事件が2件発生して以来、監視は厳しいといわれてきた。馬券売り場のJRAには監視カメラもあり、天下り警察官もいるので、いつどの警察官がいくらつぎ込んだかまでわかるという。
さらに状況証拠の一つにある「うその口実で返すあてのない多額の借金」というのは詐欺罪にあたり、判明すれば通常逮捕令状が出るといわれる。多重債務などあればなおさらだ。本件の容疑が固まらない場合は、このような別件で逮捕して身柄を確保するのが常識なのだという。県警はこの間、警察関係者600人からの事情聴取に加え、借金や金の出入りを調べるため「銀行口座など6万件以上の照会をした」などといっていたが、関係のない一般人も含めて6万人以上の口座を漁っていたことになる。今回の措置を受けて、「なぜ逮捕もせずに本人が死亡するまで泳がせたうえに、死後1年半も世間を巻き込んでまで捜査を引き延ばしたのか? 死人に口なしで都合の悪い真相を闇に葬り、幹部や関係者が退職する時期を見計らうための時間稼ぎだったのでは?」と指摘する声も少なくない。「この警部補は、盗難発覚前の4月から県の環境部に出向していた。大借金を抱えていたとしても、どうやって24時間監視の網の目をくぐって元職場からあれだけの金を持ち出すことができたのか説明がつかない」という声もある。
A 詐欺事件の被告は組織犯罪処罰法違反などの罪で公判中で、判決によって8572万円を含む押収金が犯罪被害財産として認定されると、押収金は詐欺事件の被害者への返還に充てなければならない。ところが押収したはずの金はない。そこで県警が年頭からはじめたのが、署長や警視正など所属長級以上の幹部、全警察官・職員が加入している県警互助会、さらに県警OBの組織(警友会)から金を集めて内部で補てんするという解決方法だった。退職者が出る春の定期異動の前にやってしまおうということで、すでに集金がはじまっているようだ。一般県民からすれば「県費ではなく、警察内部で補てんするのが当たり前」という話になる。同時に「これで幕引きにするつもりか」という厳しい視線もある。そして、大失態の尻拭いをさせられる現職の警察官やOBの間では「ふざけるな」という感情が渦巻いているようだ。
犯行現場は警察署内、犯人は警察で、捜索範囲はきわめて限定的なはずだが、それを捜査するのも警察だ。事件の真相が警察にとって都合が悪ければ、「わからない」といい続けて迷宮入りさせることもできる。県警では捜査三課がこの事件を担当してきたというが、「自殺ではない」が「死亡した警官」が罪を被る形で、実質的に迷宮入りしようとしている。真相解明にはほど遠いということだ。
語られる事件の「真相」 何が起きていたのか
B 関係者の話によると、今回の事件は死亡した中央署生活安全課の警部補A(30代)、同じく会計課の女性職員B(50代)、元警察署長の息子で本人も警視だった退職者C(60代後半)の3人による共犯という説が有力視されているという。これらの具体名や住所も含めた資料が出回っている。決して鵜呑みにはできないが、あらまし以下のような話がまことしやかにささやかれている。
事件発覚から約4カ月後の9月16日、県警捜査本部の事情聴取を受けている途中に自宅で亡くなった警部補Aは、中央署生活安全課で証拠品を管理する側で、盗まれた金についての詳細な情報を知り得る立場にあった。さらに金庫の鍵を管理する会計課の女性職員Bと不倫関係にあったという。Bは既婚者だが、以前から県警内で複数の幹部と関係があり、Aはそのうちの一人である元警視C(所属長級で数年前に退職)から「俺の女に手を出したな。現職のお巡りが不倫したらクビになるのは知っとるの。落とし前を出せ」と脅されていたのだという。Cの妻は中央署に勤務する警察官だという。ヤミ金にも手を出して多額の借金も抱えていたAは、金庫の鍵やダイヤル番号などを熟知するBの手引きで金庫から8572万円を盗み、3人で山分けした――というのが、警察関係者のなかでもっともらしく語られている主な筋書きだ。OBまで含めて、幾人もが「みんなが知っている」というから驚かされる。相関図のメモみたいなものまで出回っている。「捜査本部なり関係者からのリークでなければ、これほど具体的な情報が流れてくることはない」と語られている。従って「逆に言えば意図的に流されている可能性もある」という見方もある。鵜呑みにはできないということだ。物証もないのだから。
C 複数回にわたる強制捜索やとり調べの過程でノイローゼになった警部補Aは、広島では有名な精神科であるS病院に通院していた。そこで処方された睡眠薬をためて、それを多量に服用して死亡したとみられている。だが県警捜査三課は「自殺ではない」としている。自殺でなければ他殺であり、「すぐに捜査本部を立ち上げないのはおかしいじゃないか」と普通は思うが、こういうときの捜査側の逃げ方としては「薬を多量に飲んだ誤飲」「事故死」として片付けるのだという。事件の真相を明らかにするためには「容疑者の身柄の確保」が捜査の鉄則であり、本犯の自殺は捜査側の大失態だ。その責任を回避するための処理だが、県警は「事故死」とも「病死」とも死因には言及していない。
B 「捜査する側が意図的に自殺に追い込んだのではないか」という意見もかなりあった。ある関係者の話では、通常、死者が出ると検視をするために刑事課初捜班が真っ先に行くのだが、このAの死亡現場には、不思議なことに警備警察(公安)が先に現場入りしたという。検視は刑事がするもので警備が行ってどうするのかと疑問視していた。「そこでAの家に100万円束を巻いていた帯封が落ちていたので、それを証拠にしてガサビラ(家宅捜索・差押許可状)を取った」のだという。経験のあるOB曰く「警備警察は人にはできないこと、つまり禁じ手を使う。刑事が到着するまえに帯封を意図的に落とすこともできる。疑えばキリがないが、事実、警備警察はそういうことを平気でやる」と真顔で語っていたほどだ。
「“もうお前は押っつけ逮捕されるぞ”と宣告する。疑われる相当の理由があるから裁判所からガサビラが出るのだから。本人が追い詰られめているところに“お前が生きとったら、女房、子ども、みんな盗人の身内ということになる。ご両親もまだ存命中じゃないか。だが片付ける手は一個あるよの。死んでお詫びするんよ。死んで名を残すいうこともあるで。あんたにいいよるんじゃないんど。わしの独り言でいいよるんじゃ”と言葉巧みに誘導する。こういうことをいう捜査員はザラにいる。上の命を受けてやる。なぜなら本犯が自殺すれば、死人に口なしだ。事件の真相がわからなければ、本部長以下、誰も管理責任を取らないで済む」のだと。これは想像も含まれているだろうし、真相はよくわからない。しかし、いずれにしてもAが死亡した事実だけは変わらないのだ。
A 今般、警察の自殺は驚くほど多い。不祥事が起きればすぐ自殺だ。話を聞けば、それには組織の土壌が理由としてあるようだ。そして、自殺した警察官の独身寮などにはすぐに令状無しのガサをかけて、遺書や上司を恨んでいるなどのメモ書きなどの証拠品はみんな押さえて隠匿してしまうのが暗黙の了解事項なのだという。事件当時の名和振平本部長のもとでは、福島県警本部長の時代にも捜査費を盗んだ疑いをかけられた刑事2人があいついで自殺する不祥事(2014年4月)が起きている。本犯が自殺すれば真相は調べようがなく、「人の噂も75日」となる。そして、管理責任は問われない。これは警察組織の常識のようだ。
今回も、Aの逮捕令状をとるにはまず本部長の決裁がいる。いくら有能な捜査担当者が令状請求しても当然本部長が判を押さなければ、それを飛びこえて裁判所には出せない。「逮捕せず泳がせる」というのも本部長のさじ加減が大きく関係する話のようだ。
C この3人共犯説が事実ならば、中央署に籍がある女性職員BもAと同じ状況に置かれていると考えられる。現在は休職中で、精神病院に入院しているといわれるが、自営業をしている夫のトラックが「盗難金の隠し場所」と目されてガサが入ったという情報もある。退職者Cにも「口座に不審な入金があった」ので出頭要請が出ているというが、相手は署長クラスの元警視だ。「令状をもってこい」と一蹴しているのだという。一般人なら証拠をでっち上げてでも逮捕して自供させる例がゴロゴロしているのだが、捜査側は「証拠がない」で矛を収めたのだろうか。
また、女性職員Bは、現職の署長など所属長クラスとも腐れ縁があるため、内情を明らかにされると「首が涼しい所属長がいっぱいいる」といわれている。聞けば署長クラスの現職の実名がボロボロと出てくる。耳を塞ぎたくなるほどだ。「会計課は組織の裏金などブラックボックスの宝庫でもあり、Bが裏帳簿などの組織の秘密を握っている可能性もある」といわれ、おまけに極左といわれるような広島では有名な弁護士が付いているから下手に処分できないのだという。
「警察の世界というのは、現職で捕まえたら現職の警察官が犯罪を犯したことになるから管理責任が問われる。だからまず圧力をかけてやめさせて、元警察官、元職員というところにもっていく。そうすれば組織のリスクが軽減する。今回も典型的なその手口」「3人共犯説はBが職場でいたたまれないようにするために流されている可能性がある」「署内で箝口令が敷かれているのに、これだけ情報が入ってくるというのは本部サイドからの意図的なリークだとしか思えない」と語られていた。
そうであれば、真相をフェイクするためのスケープゴートなのか、あるいはイモづる式に不適切な内情が世間に明かされるのを防ぐための周到な「トカゲの尻尾切り」なのかもしれない。警察関係者のなかで具体的な話がこれだけ飛び交っているというのに、真相については「よくわからない」のだ。事件後も中央署に籍を置いていた女性職員B、さらにCの妻も早期退職するのだという。今回の書類送検にあたり「死亡した容疑者の男以外に関与の疑いが強い人物は他にいなかった」という県警の説明とは矛盾する話だ。
B また事件後、「会計課の金庫に3000万円が戻っていた」という情報も複数から聞いた。「2000万円だ」という説もある。耳にしたのは昨年6月ごろだが、会計課に監視カメラが付いたのが事件発覚から半年後の2017年11月7日。その前日のことだという。Aは9月に死亡しているわけで、本当ならば別の人間が返したことになる。「一体何のためかはわからないが、会計課に出入りしている人間にしかできない」といわれていた。ただし県警はこの件を発表していない。これまた、警察関係者のなかでザワザワと話が飛び交っているにすぎない。ホントか嘘かもさっぱりだ。真相解明が進まず、しかも釈然としないから、このようにザワつくのだ。
不可解な顛末の裏側 回避される管理責任
A 以上が「関係者」の間で語られている事件の内容だが、世間一般からすれば、なぜそこまでして管理責任から逃げるのかがまず理解できない。内部であろうが外部であろうが、早く犯人から盗難金を取り戻すことが最優先されるべきだ。関係者を処分し、管理責任をとって公明正大に膿を出し切ってこそ、失った社会的信用も取り戻せるというものだ。
ところが「世間の常識は警察の非常識、警察の常識は世間の非常識」だと内部にいた人間がいう。直近の記者会見(昨年5月7日)で、田中徹監査官室長は「捜査の全容が解明されておらず、責任の所在があきらかでないので処分はできない」「退職者をさかのぼって処分はしない」と説明していた。警察には犯罪者を捕まえる権限もあるが、自分に都合が悪い事実は「捜査の秘密」で明らかにしない権限もある。「事件の真相がどうあれ、県民が納得しようがしまいが、県警は落としどころを見つけている。事件の内容がつまびらかでないので処分できない→処分対象になる人間は1、2年もすればみんな退職する→退職した者は処分できない。つまり事実上、なにもしないということだ」と指摘するOBもいた。
B 世間を騒がせた大事件であり、都道府県警察を統括する警察庁にもおおいに監督責任があると思うが、関係者にいわせれば「地元のもので落とし前を付けろ」が隠然とした体質なのだという。県警本部長や警務部長は本庁採用のキャリア組で、それ以下の都道府県採用の幹部とは別格扱いだ。いい例が、事件当時の名和本部長(警視監)を昨年1月16日付でさっさと中部管区警察局(今年1月に退職)に栄転させており、新たに警視庁総務部長だった石田勝彦が本部長に就任した。これは警察庁(その上にある国家公安委員会)の人事だ。しかも、事件後はじめての記者会見が離任会見だった。事件当時の責任者である県警トップを切り離してしまうことで「われ関せず」を決め込む。中央署でも署長と会計課長を残して、副署長以下ほとんどが別部署に異動しているという。
C この春の異動期にかなりの関係者が退職するようだ。井本雅之・中央署長(警視正)も満期まで残り1年を残して早期退職し、「責任を取った」形にするのだといわれている。ただそれは表向きの話で、退職後の天下り先はしっかり確保してあるのだという。通常は幹部クラスになると天下り先で現役時代の年収が保証され、署長なら年収700万円ほどで5年ほど雇用される。「1年早く辞めたら、当然天下り先での雇用期間を6年に伸ばす。しかも渡りをつけるので、6年後に退職金を受けとったうえに、さらに別企業に新ポストが次々用意されている。中央署長クラスになればメガバンクなど財閥企業が迎えに来る。しっかり甘い汁を吸えるので、早期退職など痛くもかゆくもない」といわれている。このあたりの真相は今後の成り行きをみればわかることだ。そもそも井本署長は8572万円を会計課の金庫に保管することを命じた当事者であり、「退職するから後は任せた」で済まされるのか? と普通は思う。当然、会計課長の処遇も注目される。
B 直近の広島県警退職者の天下り先をみても、交通安全協会や防災通信協会などの公益法人をはじめ、民間銀行、保険会社、建設会社、小売大手、自動車学校校長などさまざまだ。警視以上になると500~700万円で顧問や事務局長などのポストが与えられる。警部なら自動車学校校長で400万円クラスだ。警部補以下なら、月18~20万円で安全協会の講習指導官や交番相談員などの職があてがわれるという。警視ばかりがいい目を見ていたら部下職員が反乱を起こすからだ。
毎年、県民に「治安はよくなったと思いますか?」「交番が留守だと不安ではありませんか?」という質問で「不安です」という答えを誘導するようなアンケートをとり、それをもとに交番相談員などという制度を導入して、概ね月18~20万円の給料で5年間OBを雇い入れる仕組みもある。実際には、電話番くらいでほとんどやることはない。これを広島県下200カ所の交番に割り当てるために5億円近い金が毎年県の予算で確保される。
この何年かは団塊世代の退職警官を世話するために天下り先づくりがどの自治体でもやられている。例えば下関を見ても、下関署の最上階は「退職者の吹きだまり」などと揶揄されているが、OBが天下る警備会社の駐車違反取締員、路上喫煙監視員などが配置され、市役所の嘱託職員の身分をあてがわれたり、取締の委託を受けた企業から雇われる形で警察OBが世話されている。路上喫煙監視員が3~4人で市役所界隈を歩き回っているのをたまに見かけるが、週に何度か散歩するだけで給料がもらえる仕組みだ。その委託料はみな市の税金から拠出されている。システムとしてできあがっている。
C 関係者たちの話では、不倫、置き引き、横領、暴力団との癒着など、警察のなかで起きる不祥事は、現職時代に処分すると管理責任を問われるので、天下りポストを用意したうえで辞職させ、退職後も管理するのが警察のやり方だという。退職後もきっちりと天下り先や再就職先を確保することで上意下達の警察組織の権威を保っているようだ。
数年前、一般女性への暴行未遂事件を起こしながら「減給処分」だけで満期まで勤め、その後、安佐南区の某大型ショッピングモールに保安係として天下った元警視もいるというから恐ろしい。名前とともに「あいつは強姦魔なのに」といわれても、聞かされるこっちがビックリするではないか。このときも警察は「セクハラ行為」と丸く表現したうえに、「職務中の行為でなかった」として事実をすぐに公表せず、「関係者のプライバシーに配慮」といって警視の役職や行為の日時、減給の程度や月数などを一切明らかにしなかった。被害女性はノイローゼになっているのに、その元警視の退官時には市内某ホテルでお別れパーティーまで開き、今はよりによって保安係というから呆れた話だ。
「不祥事が起きると正当に処理するのではなく、まず自分たちの管理責任を回避するために四角いものを丸くして出す。そのうち本人を辞めさせるというのが常套手段。今回もそのパターンだ」といわれていた。不倫などの女性問題、サラ金、また上部に反抗的な態度をとる人間も、左遷したり、別件で圧力をかけて辞職に追い込み、「天下り先を用意してやるから辞表を書け」という話はザラで、上層部にはそのような危機管理マニュアルがあるようなのだ。
A 事件の話に戻すと、上層部の管理責任といっても懲戒処分(減給・停職・免職・戒告)はなく、せいぜい本部長注意程度で、署長クラスまで上り詰めた人間にとっては特に人事に影響するわけでもない。早期退職しても天下り先があるから痛くもかゆくもないのが実際のようだ。にもかかわらず管理責任を回避するのは、むしろ事件の真相を隠さなければならない相当の理由があるからだと見なすのが普通ではないか。その真相を隠蔽するために、警察署内で大金が盗まれるという前代未聞の事件にもかかわらず、処分もなければ逮捕者もいないという不可解な顛末になっているのではないか。現実に、容疑者の一人が死亡しており、「被疑者死亡」「捜査続行不可能」、さらに「関係者退職」で追及から逃れる条件が揃っている。容疑者死亡なら、立件しても不起訴になる。その側からみれば「これ幸いの状況なのだ」と語られている。Aがみなかぶって迷宮入りなのだ。
組織内部に巣食う腐敗 行方わからぬ盗難金
B 最大の疑問は、肝心の被害者に返さなければならない8572万円はどこにあるのかがわからないことだ。どうやって盗み出したのかもまるでわからない。返済期限が迫るなかで、互助会やOB会からも集めて補てんすることになった。これも「内部補てんなら県民の批判を受けないことをわかったうえでの措置だ」と憤慨している関係者が少なくないようだ。マスコミを使ってアナウンスしただけで、現職でも「一切説明は受けていない」という。互助会は現職の警察官と職員5500人、警友会のOBは3000人ほどおり、これに所属長以上の幹部が60人程度いる。単純計算で1人1万円を割り振れば8500万円程度はすぐ集まる。仮に3000万円が帰ってきたのが事実なら、集める金は5572万円でいいはずだが、いくら集めるつもりなのだろうか。
「この内部の金集めを誰がいい出して、その判断の責任を誰がもつのかについても一切説明はない。もちろん金額もいわない。人事を握られているから誰も逆らえない。こんなバカげたことはない」「互助会の会費は給料から天引きされており、警友会もすでに納めた年会費(3000円)のプール金を使うので拒否もできない。警友会長を上級の元県警本部総務部長がやっており、これらがトップ会談で決めて、あとはトップダウンで銭を集める。捜査の難航を理由に、現職の下部職員を恫喝し、OBまで強制的に協力させて、自分たちの管理責任だけは回避している。こんなことが許されるのか」と怒りの声があがっているという。
A 関係者から警察内部のお金の話を聞いてみると、そのような処理の仕方は珍しくないようだ。一般的には知られていないが「警察ではいわゆる盆暮れや昇任試験などの節目に、上層部にお礼を持っていかなければひどい目にあうし、しなければ昇級できない」と話す人もいた。「付け届け」とか「鼻薬」とかいわれる。
「昇任試験に通ると署長官舎に“5・3・2を持ってこい”といわれ、5000円、3000円、2000円と思っていたら“5万、3万、2万だ”といわれ、結局10万円納めた。警察署は署長の独裁体制で、署長推薦がなければ昇任試験も受けられない。是是非非ではなく、人事権を握る警部以上に睨まれれば左遷だ。そのためにはいかに上納するかが大きく左右する」
「警察官同士が飲みに行く。普通の会社だと年上の上司が銭を出すだろうが、警察では部下が出す。それでは部下は金が貯まらないと思うだろうが、あとから時間外手当(超過勤務手当)でその分を上乗せしてくれる。だから出しても決して損はない。本部から降りてくる時間外手当の割り振りの権限は署長と次長が握っている。例えば100万円という時間外手当をみんなに配ったという帳尻さえ合えば、誰を1万円にしようが、10万円にしようが、これは署長たちの権限。上司に対して横着なものは削られ、日頃から上司の覚えめでたく、気を利かせて身銭を払うようなものは、その分だけ時間外で補てんしてもらえる。いわゆる公費を使ったマネーロンダリングだ」と語られていた。
天下り先まで抱え込まれているならOBも容易に文句はいえない。「窃盗犯はもちろん問題だが、そのような事件が起きる土壌が問題だ。事件が起きても真相を隠蔽し、管理責任を回避し、つじつまが合わなくなると負担は下部に押しつける。この体質を外部のチェックで正さない限り、犯罪はますますエスカレートしていく」と心ある関係者たちは問題にしていた。実態や真相を暴露した本でも書いたらいいのではないかと思うくらい、聞いていて唖然とするものがある。
B 警察署で大金が消える前代未聞の大事件だが、どうやら警察の受け止め方と世間一般との間には危機意識に相当なギャップがある。関係者から話を聞けば聞くほど、警察署で8500万円が消えても不思議ではない感覚に陥ってしまうような話がゴロゴロしている。昨今、減るどころか頻繁に起こる警察官の不祥事や犯罪、自殺、なくならない裏金作りなどもそのような組織的な土壌に問題があるのではないか。「死人に口なし」での幕引きは許されない。隠されている事実を明らかにし、そのような陰湿な体質にメスを入れることなしに世間は誰も納得しない。
A 8500万円盗難事件だけでもこれほどの分量を割いてしまったが、取材の過程で耳にした警察組織の実態については少々驚くような話が多すぎて困惑した。上部への上納、裏金、架空請求書の捏造、ホイトゴルフ禁止令等々、言葉を失うような話がゴロゴロと横たわっていてほんとうに驚く。警察はとりしまる側だが、その警察は誰がとりしまるのか?だ。少々整理するのに時間がかかるかもしれないが、今後も問題提起していく必要がある。